現在、生物学者にとどまらず、科学者一般の世界では95%は進化論は正しいものと考えられているだろう。進化論という前提はほぼ常識とされ、その前提自体が疑われることはほとんどない。しかし、本当に進化論は正しいのだろうか?ダーウィンによる『種の起源』が出版されてから、100年を経過した現在、再考の余地はないのだろうか?私にはなお納得できない部分が何点かある。
私の疑問点を挙げる前にまず私が納得する部分は、古い時代の生物ほど低級であり、時代が新しくなるにつれて高級な生物が増えてくる。突然変異と自然淘汰が現象としてある。これについては私もその通りだと考えている。しかし納得しかねるのは以下の点である。 まず第一に、低級な生物が高級な生物に進化するためには、ある方向性をもった変化が積み上げられる必要性があり、それについて自然淘汰と突然変異では合理的な説明がなされていない、と思われること。自然淘汰や突然変異がある変化をもたらすことはもちろん、ありえるだろう。しかし変化が沢山起きればそれが進化になる、という考え方にはどこか飛躍がないだろうか?何百万年経てばこういう変化もありえるのだ、というのは本当に説明になっているのか?膨大な数を持ち出すことによって幻惑させているだけではないのか?例えば砂丘で風が砂の上にさまざまな模様を描く。それは変化するが、その模様の変化が積み重なって意味のある絵ができあがるということがありえるだろうか?変化にはプラスの変化もあればマイナスの変化もある。ランダムに変化が起これば、平均すればその変化はプラスマイナスゼロになるというのが宇宙における統計的真実である。自然淘汰と突然変異は変化論にはなりえても、進化論の説明にはなりえない、あるいは前提条件が欠けている、と考えられないだろうか。 第二に、もし進化論が正しければ現存するすべての生物はヒトも含めて進化途上にあるはずである。もしそうであるならば、多くの生物の身体には無駄なものがついているはずである。ところが現存する生物の身体を調べると無駄な構造はほとんど存在しない。(ヒトの虫垂(盲腸)は無駄だという人もいるが、虫垂は宇宙に出たときに必要なのだという話もある。)身体にある構造物があれば、それは必ず何らかの役割をもっている。これをどう説明できるのか? 私としては進化論は一部分は真実であるとしても、進化を説明する前提条件に不備があるのではないかと考えている。 …と、ここまでの議論はただのお話である。哲学的な議論にすぎない。これまで進化に関してはあまりにも長い歴史をかけて実現されるものであるため実験はできない、とされてきた。そういう意味では進化論は実証されておらず、大いなる仮説に過ぎない。しかし私は最近の複雑系の科学の手法を用いれば、実験的に進化を検証できるのではないかと考えている。仮説的なモデルを作り、それらを相互作用させることによって進化の過程をシュミレートさせるのである。そういう中で進化論の前提に大きな修正が加えられるのではないか、というのが私の予想である。 カウフマンの理論生物学(カウフマン・ネットワーク)、金子邦彦の構成主義的生物学(生命とは何か-複雑系生命論序説)、ラングトンやウォルフラムらの人工生命研究、(カオスの縁(1)、複雑系の生物学(4);人工生命「ティエラ」)、遺伝的アルゴリズム(複雑系の生物学(3);遺伝的アルゴリズム)など。最近の研究は生物研究の新しいあり方を提示している。量子力学者のシュレディンガーは「生物は負のエントロピーを食べて生きている」と語り、それが生物物理学(バイオフィジックス)という新しい分野の出発点となった。エントロピーの問題も結局は秩序という情報の問題である。生物の世界の法則も煎じ詰めればこの宇宙に存在する「情報の法則」に従っていることが、これから明らかになってくるのだろう(情報生物学と言うべきか)。
by ykenko1
| 2005-03-16 19:12
| 生物学
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Comments(4)
一口に進化論といっても、さまざまなものがあります。
池田清彦の『さよならダーウィニズム―構造主義進化論講義』に書かれているように、自然選択に 否定的な意見も珍しくありません。
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ykenko1 at 2005-03-22 00:23
酔狂人さん、コメントありがとうございます。池田氏の構造主義的進化論というのは私は知りませんでしたが、木村氏の中立的進化論などいろいろありますね。いずれにせよ、何らかの方法によって進化論のいろいろな理論が検証されていくことが必要だと考えている今日この頃です。私も知らないことが多いので、いろいろ教えてもらえればありがたいと思います。
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tyuuya2 at 2005-06-26 08:01
はじめまして。
「シュレディンガー」と「複雑系」でググってこちらにきました。 このブログは、丁寧に書かれており勉強になります。 「この宇宙を情報という観点からとらえなおす」というので以下の本を思い出しました。自分は読んでませんが。 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4791757319/250-9293252-5913010
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ykenko1 at 2005-06-26 14:05
tyuuya2さん、こんにちは。コメントありがとうございます。『生命記号論』という本、面白そうですね。つい最近、別のブログの記事(http://blog.livedoor.jp/t01307kk/25915373)でもこの本のことを知ったばかりでした。この本を読め、ということなのでしょう。ところがアマゾンで在庫切れになってました。まあ、なんとかして読んでみます。これからもよろしく。
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