複雑系の生物学(13);金子邦彦『生命とは何か』レポート⑤ ゆらぎと記憶

 金子氏の本の中で以下のようなモデルが提示されている。初めは一種類の細胞(幹細胞S)がいくつかあって相互作用しながら何種類かの細胞(AとB)へと分化していく。そしてそのときに細胞S、A、Bが例えば縞模様のようなパターンを作る。そのとき分化した細胞Bをひとつ取り出して別のところにおいて見ると、その細胞は幹細胞Sに脱分化して再び同じような縞模様を作る。一方、細胞Bをある一定の数以上取り出すと今度は縞模様を作らず、B細胞だけの集団になってしまう。
 ここで生じてくるパターンはそれぞれの細胞内部のゆらぎと細胞同士の相互作用によって生み出されるものである。まず空間的な情報がある訳ではなく、相互作用から発生した構造が空間的に変換されたものである。

 上記のことからいろいろとひらめいた。
 人間の身体や精神状態の中にもそれぞれの細胞内のゆらぎとその周囲の細胞群の相互作用によって過去の歴史が様々な形で刻みこまれているのではないか。過去の体験によってゆらぎのパターンとして身体に刻みこまれたものが、病気の原因となったり、PTSDのような精神症状の原因になったりすることがあるのではないだろうか?
 ホログラムを連想。ホログラムは位相をわざとずらしたレーザーを対象に当てることによって、そこから反射されたレーザー光の干渉波をフィルムに焼き付けることによって、あとから立体映像を再構成させるもの。ホログラムの特徴はフィルムの一部分の中にも全体の情報が圧縮されて入っている。ホログラムのように我々の体の細胞ひとつひとつの中にゆらぎのパターンとして過去の全歴史が刻み込まれているのではないか…。
 人間の記憶もこれまで考えられているようにニューロンネットワークでのシナプスの伝達効率の変化のみならず、神経細胞に限らず様々な細胞のゆらぎのパターンにより刻み込まれている内容もあるのではなかろうか。
 親から子への遺伝は遺伝子だけではなく、ひとつの受精卵の中に込められた親の人生の履歴のゆらぎのパターンによる伝達もあるのではないか。
by ykenko1 | 2005-06-12 17:31 | 生物学 | Comments(2)
Commented by nadja at 2005-08-01 02:03 x
複雑ネットワークに興味があるのですが、どういうものがあるのですか?
Commented by ykenko1 at 2005-08-01 07:15
nadjaさん、こんにちは。私も専門ではないのですが、金子氏はカオス結合系というシステムを研究されてきた方です。カオス的な動きをするシステムを複数連結させるとどうなるか?という研究です。そうすると面白いことにその内に幾つかのシステムが同期現象のような動きをするようになり、いくつかのグループに分かれていくクラスター化という現象が起きるのだそうです。この『生命とは何か』という書物の中ではカオス的な動きをする化学反応ネットワーク同士の相互作用をシュミレーションしていますが、そうするとやはりクラスター化の現象が認められるそうですね。


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