『心が脳を変える』を読んで

『心が脳を変える』ジェフリー・M・シュウォーツを読んだ。真っ向から心脳二元論の立場に立って、心が脳を変える力を持つという主張は過激だが、いろいろと勉強になった。大脳皮質のダイナミックな再構成についての最近の研究に付いてよくまとまっていて、目から鱗であった。痴呆の方々への応用は可能であろうか、考えてみたい。

心脳問題の根底のメカニズムについて量子力学を持ち出しているが、一番の問題点は量子力学はあくまでもミクロの領域の話なので、それが脳というマクロの領域でいかに作用するかという部分。シュウォーツは量子力学者のヘンリー・スタップと共に神経伝達物質放出の引き金となるカルシウムイオンのチャンネルに注目している。カルシウム・チャンネルは1ナノメートル未満と微細な領域なので量子力学の法則が適応されると言う。

それにしても量子力学が何を意味しているかについては未だに、決着にはほど遠いようだ。連続して観測を行うことによって、対象となる粒子の状態が固定化されるという量子のゼノン効果(見ているヤカンは沸かない)というのは初めて知った。何でこんなことが起きるのやら。

自由意志に関する実験で有名なベンジャミン・リベットが自由意志否定派だと思ったら、擁護派だというのは意外だった。彼の実験では手を動かそうとする550msec前に準備電位が発生し、運動の100〜200msec前に行動しようとする決断が意識される。つまり準備電位から350msecほど遅れる。これまでの一般的な解釈は自由意志と言うのは存在しなくて、ある意識が生じる前に神経活動が発生しており、自由意志と見えるのは単なる神経活動の発火現象の後追いの現象に過ぎないと言うものであった。しかしリベット自身はそうではなくて、むしろこの遅れて意識されるのは運動をそのまま進行させるか、とどめるかの介入のための自由意志なのだと考えているようだ。
by ykenko1 | 2006-07-24 13:30 | 脳科学 | Comments(0)


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