脳のholisticなメカニズムとsmall world network

わるねこさんの後追いでsmall world networkと脳のholisticなメカニズムについて考えて見た。おそらくわるねこさんがその内、詳細なレビューをしてくれることと思うが、自分として理解したことをまとめて置こう。

small world networkは規則的なリンクにランダムリンクを少数付け加えることにより、クラスター指数が高いと同時に隔たり次数の低い構造を持つものを言う。(例えば60億の人類の中でランダムに2人を選ぶと6人の知人を介して繋がっている。よく世間は狭いと言うが、その現象のこと。)
ワッツとストロガッツが数学的に証明。(Nature 1998;393:440-442)
俳優のネットワーク、電力網、線虫の神経ネットワークもスモールワールドになっている。
ホタルの同期発光、神経細胞の同期発火も同様のメカニズムによって説明できる。すなわち、近傍の数匹のホタル(または神経細胞)との関係で自己のあり方を調整することによりシステム全体と同期することが可能になる。

Edelman,Tononiの“A Universe of Consciousness”の中ではneural networkが適度なクラスター性とクラスター間のリンクを持つことによって、システム全体が相互に取りうる表現可能性(complexity)が高められていると主張しているが、これは正しくsmall world network構造のことだ。神経細胞は個々の細胞と全体構造の間にクラスター性を持つことによって、より多くの機能を遂行可能なシステムとなった。

ローカリティを通じてこそユニバーサリティに通ずることができるのだ、と思った。

ネットワーク科学でのキーコンセプト
「規則性とランダム性」「クラスターとクラスター同士の連結」「ハブとリンク」


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by ykenko1 | 2007-01-13 11:25 | 脳科学 | Comments(2)
Commented by わるねこ at 2007-01-16 18:48 x
ykenko1さんの説明、とても分かりやすかったです。ありがとうございました。

グラフ分析によれば、クラスター係数は、あるノードの集合のうち任意の二つのノードがリンクをもつ確率でしたね(色々と定義があるようですが、僕が読んだ本ではそうでした)。

また、ウェブ関連のネットワーク理論では、コミュニティに属しているかの基準として、「外部よりも内部とのリンクの方が多いこと」というのがあるそうです。

そこで、Edelman、Tononiによるfunctional clusterのクラスター係数(CI)定義は、あるシステム内のサブシステムについて、大まかに言えば

CI=自身との相互作用/外部との相互作用

でした。
つまり、あるサブシステムが外部よりも自身と強く相互作用をするとき高いCI値をもち、このようなサブシステムをfunctional clusterと言ったのでしたね。

こうやってみると、Edelman、Tononiの理論もまさしく脳でネットワーク科学をやっているんだということが分かりました。
Commented by ykenko1 at 2007-01-16 22:35
これもわるねこさんの御蔭です。アルツハイマー病の患者さんの経過を見ていても認知機能が階段状に悪化するようなことがあります。これはおそらく脳の中の神経細胞のクラスターとクラスター同士を結んでいるリンクが障害されることによって、脳のネットワーク特性が大きく変化している様を表しているのではないか、と考えました。こんな風にいろいろと悟ることができ、こちらこそ感謝しています。


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