わるねこさんに紹介してもらったBuzsaki "Rhythms of the brain"を読んでいる途中なのだけれど、ここ数年来で最も大きなインパクトを受けた本になった。脳に関する見方が根本的に変わり、目から鱗が何枚も落ちた。本書の脳に関する観点は非線形科学に基づいた全く新しいパラダイムに基づいている。このようなアプローチこそ、私が求めて来たものだ。以前から複雑系が趣味でいろいろと調べたり、ブログに書いたりしてきたのだが、それは最終的には脳に関して複雑系の観点から理解したかったためだ。今まで漠然として、結びつかなかったものが本書を通してひとつの焦点を結んだ。
何故、本書が現れて来たのかと言えばようやく機が熟して来たということなのだろう。ネットワーク科学を含めた複雑系科学の進歩、認知や意識の問題と関連したニューロンの同期的振動現象(synchronous oscillation; S.O.)の発見、等が有機的に結びついてきた。特にS.O.についての理解が深まってきたことによってsingle cell studyと人間の行動との中間レベルの現象が解明され、新しい観点から脳とその機能について見つめる事が可能になった。脳に関する新しい観点を一言で言えば“self-generating brain”ということになる。これまではsingle cell studyに基づいて外界からの刺激に対して反応する脳というパラダイムを抜け出すことができなかったが、Buzsakiが描き出しているのは自ら振動し情報を生成しながら、外界からの刺激はその撹乱として受け止める脳の姿である。 脳はニューロンの最も重要な機能を果たす細胞体がその表面を覆い(大脳皮質)、神経繊維がその内側を縦横無尽に走っている構造であるが、何故このような不思議な構造になっているのか、本書を通して私は初めて理解できた。それはこのような形こそが脳のsmall-world network構造をもっともすっきりと整理することができるからである。脳表面のニューロン同士は近傍でのコミュニケーションがしやすい。なおかつlarge-scale connectionを形成する神経繊維はその内部においてあらゆる方向性で連絡を取る事ができる。もし細胞体が内部に位置しているとすれば、近傍での連絡をする繊維と大域での連絡をする繊維が複雑に絡み合う事になり、発達上も難しい過程を通過しなければならなくなるだろう。 本書は既に新しい時代の教科書である。これから歴史的名著として多くの人々によって読み継がれていくに違いない。 わるねこさん、ありがとうございました。 #視床皮質回路は感覚入力の処理よりも皮質からの入力の処理を担当している神経の束が多くを占めている。そのことによって視床は皮質との間に相互連絡回路を作り出し、振動現象を生み出している。すなわち視床の機能はこれまで考えられてきたように感覚情報の中継地である以上に皮質との間で振動を生み出すための構造と考えられる。(p177-179)
by ykenko1
| 2007-03-24 06:25
| 脳科学
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Comments(2)
いえいえ、こちらこそいつも色々と刺激になっています。僕はまだ時間が無くて、2章までしか読み終えてません。いきなりsmall-world networkやscale-freeの話が出てきて、「あー、これは良い本だ」と思わずうなってしまいました。ykenko1さんは、もう大分読み進めたのでしょうか?
僕自身も、久しぶりに読み進めるのが、もったいない(?)本に出会うことができたと思っています。 僕も、small-world networkとかS.Oなどを知るまでは、脳のどのレベルを考えればよいのか今イチ自信がもてなかったのですが、Buzsakiらが言っていることで、大分クリアーになってきました。それは、おそらく「関係性」ということになるのでしょう。VarelaやEdelman、Tononiらが言っていたことが、既にかなりの具体性を帯びてきているのだと思います。 自ら情報を生成する脳にとって、外界からの刺激は撹乱として受け止められるというBuzsakiやykenko1さんの立場、僕も賛成です。
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ykenko1 at 2007-04-10 23:58
実は私も5章の途中まで読み進んだところです。しかしこれまでの部分でもかなりインパクト大きかったですね。複雑系やネットワーク科学や様々な分野の研究が実りを結んできたようです。我々は良い時代に生きているな、と感じます。
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