セス・ロイド;『宇宙をプログラムする宇宙』

a0010614_8463460.jpg原題;“Programming the universe-A quantum computer scientist takes on the cosmos”

本書を読んで大変満足した。以前、私が予想していた情報物理学(情報と物質)の方向性が着実に前進していたからだ(ただし以前の私の思い描いていた情報とは違う形であったが。以前、私がブログに書いていたのはビリヤードボールの例で、ビリヤードのプレイヤーの頭の中にあった情報が物質の運動として転換されるというようなものだったが、実際にはプレイヤーがボールに最初に与えた運動量などの物理量という形で表現された情報が保存されるということになる。)。情報物理学はトム・ストウニアや稲垣耕作が提唱したもの。

セス・ロイドはMITの機械工学の教授で量子情報や量子計算、量子コンピュータが専門。その分野ではカリスマ的存在である。

ロイドによればこの宇宙は巨大なコンピュータと言うことになる。コンピュータはコンピュータでも量子コンピュータである。例えば素粒子はその位置と速度によって情報を表現する。素粒子同士の衝突などの相互作用はブール演算と同じ作用を意味する。

この宇宙は計算しているが故に必然的に生命現象や知性などの様々な複雑性を生み出すことになる。

ダーウィン流の進化論で考える時にいかにしてランダムな現象が生命などの秩序を生み出すことができるかということが問題になる。そのひとつの検証実験としてサルにコンピュータを叩かせてシェークスピアの作品のようなものを生み出すことができるか、というものがある。しかしその確率は当然のこととして限りなくゼロに近い。しかしシェークスピアは難しくとも極く簡単なプログラムを生み出すことができるかもしれない。簡単なプログラム同士が集まって複雑な仕事をするということはよりありえそうなストーリーである、とロイドは考える。

自己言及的なプログラムは予測不可能な振る舞いを見せるというのも面白かった。また熱力学の第二法則は物理法則において情報が保存されるという観点から説明されるらしい。

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by ykenko1 | 2008-01-16 00:44 | 科学など | Comments(4)
Commented by わるねこ at 2008-02-18 22:09 x
ykenko1さん、最近非線形力学や物理学関連の勉強が充実していますね。この本、早速購入してみます。
ちなみに、DNAコンピューターや量子コンピューターなど、一見ランダムなミクロレベルの物理現象や化学現象を演算素子として利用するという技術を何かのドキュメンタリーでみた記憶があるのですが、そのときはかなり驚きました。でも、よくよく考えてみると、脳も似たようなことをやっているんですね。量子力学や情報理論などが脳科学に接近するという最近の傾向も、納得できるような気がします。
Commented by ykenko1 at 2008-02-18 22:38
わるねこさん、こんにちは。
>最近非線形力学や物理学関連の勉強が充実していますね。
自分の研究に関係しているというよりは、単なる趣味なんですが。

私がセス・ロイドの本について書いたもう一つの記事にも書いたのですが、量子コンピュータによって脳のシュミレーションはできないだろうか、などと妄想していました。

脳の中で大規模な形で量子力学的なメカニズムは取り入れられていないかもしれませんが、少なくとも神経伝達物質の放出の場面には関与している可能性があります。活動電位がシナプスのところまでやって来たときにカルシウムの作用によってシナプス小胞からの放出がなされる訳ですが、カルシウムの取り込みと小胞までの伝播過程には量子力学的なメカニズムを想定する必要がありそうです。神経伝達物質の放出そのものが、活動電位の到達に対して0.2-0.9程度の確率的放出になっていることにも量子力学的な作用が関係しているのかもしれません。
Commented by ykenko1 at 2008-02-18 22:38
ロイドの本で情報保存の法則について知り、興味深く思いました。彼によれば情報には二つの種類があり、ひとつが秩序的な情報でこれは目に見えるものであり、もうひとつがエントロピーでこれは目に見えない情報だそうです。これら二種類の情報を合わせたときにその情報の総量が保存されるとのことでした。

この宇宙には情報の法則があって、それが脳の構造に反映されているのだろう、というのが私の意見です。
Commented by わるねこ at 2008-02-20 00:52 x
ロイドの情報保存の法則は初めて知りました。ykenko1さんのコメントで、漠然としたイメージが具体的になりました。僕自身も物理世界の全ての現象は、「情報現象」だと理解しています。脳は、そのネットワーク特性から無数のニューロンの発火によって成り立つ莫大な情報を統合する器官のようなものだと考えています。


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