MITと認知リハビリ

  神戸大学保健学科の関啓子先生のメロディック・イントネーション・セラピー(MIT)に関する講座に参加した。MITとは非流暢性失語の患者に発話の流暢性を高めることを目標にした介入で、簡単に言えば言語を音楽的な枠組みにのせるように再訓練する方法である。失語症の方は左の大脳半球が障害されている事が多いが、歌うように話をさせることで右半球を介して言語活動をするようなループを作ってしまうのである(右半球は音楽や歌、リズムなどの情報処理を担っている)。
  認知リハビリという観点から言っても、失語症に関する言語療法という観点から言っても非常に成功している介入法ではないだろうか?と言うのはこの介入そのものは例えば10日間程度の短期間であったとしても、そして慢性期の患者であったとしても、その後、患者は訓練した言葉の使い方がうまくなるだけではなく、新しい言葉の発話も明らかに改善するからだ(いわゆる汎化が可能になる)。意外な事にBelin(1996)によるPETの研究では左半球障害の失語症患者7例で、MITを用いない言語課題では左の言語野に相当する部分の右半球の血流の増加が見られたのに比して、MITによる復唱課題では左半球の言語野を中心とした前頭前野の血流の増加を認めたと言う。
  MITの大きなパラダイムは通常は左半球を使って発話しているのを、右半球を使った新しい発話のループを作らせる事だ。その為に介入者が患者に復唱させる時に最初は課題文を「歌う」。それと同時に手をリズミックに動かす。その事により脳の中ではおそらく神経活動のパターン同士の新しい結びつきが促される。患者は訓練を通して新しい脳の使い方のコツをつかむとそれを他の言語活動にも応用できるようになる。
  認知症患者における介入にも多くの示唆が与えられた気がした。

参考文献
・ Sparks RW, Holland AL. Method: melodic intonation therapy for aphasia. J Speech Hear Disord 41: 287-297, 1976.
・ Sparks RW: Melodic intonation therapy. In: Language Intervention Strategies in Adult Aphasia, R Chapey (ed), Wiliams and Wilkins, Baltimore, 1981.
・ Belin P, Van Eeckhout M, Zilbovicius, et al. Recovery from nonfluent aphasia after melodic intonetion therapy: A PET study. Neurology 47: 1504-1511, 1996.

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by ykenko1 | 2009-06-09 11:26 | 認知症関連 | Trackback | Comments(6)
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Commented by kokoemoon at 2009-06-09 19:59 x
歌は歌える、認知症の方で、失語症のかたが、いらっしゃるのは、そういう脳の構造なんですね。それを通してなにができるかは、私にはわかりませんが、勉強させていただきました。

by kokoemoon
Commented by ykenko1 at 2009-06-09 20:37
kokoemoonさん
>歌は歌える、認知症の方で、失語症のかたが、いらっしゃるのは、そういう脳の構造なんですね。

そうなんです。

私としては薬物療法やいわゆるケアとは別に、ある種の介入によって認知症の進行を遅らせたり、認知症の方のQOLを高める方法をつかみたいのですが、なかなか簡単ではありません。模索中です
Commented by あかね at 2011-01-21 18:48 x
関啓子さんのメロディックイントネーション法についての記事をよみ、看護研究にしたいと考えている看護学生のあかねといいます。突然なのですが、この研究はいつ頃行われたのか、教えていただきたいです!すみませんいきなり、、、
Commented by ykenko1 at 2011-01-22 07:45
あかねさん、こんにちは。この方法が一番最初に報告されたのが、ブログの記事の参考文献にも載せてありますが、Sparksの1976年の論文だと思います。日本での報告は日本高次脳機能障害学会(旧;日本失語症学会)でのものが、おそらく中心になっていると思います。現在、資料が手元にないので、また参考になりそうなことがあれば、後でコメント欄に追加投稿します。
Commented by ykenko1 at 2011-01-22 08:54
あかねさんへ。追加の投稿です。以下の方法で関啓子先生の論文のpdfをダウンロード可能です。参考になると思います。「日本高次脳機能障害学会のホームページにアクセス→学会誌をクリック→(各巻の目次はこちらから…)のところから(第28巻第1号〜第4号;2008年発行)に移動→第28巻第3号のところから(※この号のJ-STAGEへ)をクリック→関啓子先生の論文『言語聴覚士による〜』のところからpdfをダウンロード」。ご検討をお祈り致します。
Commented by あかね at 2011-02-04 19:20 x
主さん、おせわに
なりました。なん
とかみに行くこと
ができました(..)
ほんとにもーっ
ありがとうございます(..)


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