カテゴリ:社会科学( 3 )

複雑系の経営学

  田坂広志氏は『複雑系の経営』(東洋経済新報社)の中で複雑系の観点から現在の経営学にどのようなアプローチが可能なのかについて展開している。我々は気が付いてみると知らぬ間にデカルト的パラダイムや機械論的世界観の中で発想し、行動している。それがこの200~300年の先進諸国のパラダイムであったので、当たり前のこととなってしまっているが、そのため新しい発想に行き詰っていることも多い。この本の中では、いろいろなアイデアが詰まっていてハッとさせられることが多い。
  一番、興味深かったのが組織のデザインに関する部分である。機械論的世界観の中では組織や企業の理想像を設計図として、組織をその方向に制御、管理し、組み立てていく。一方、生命論的世界観の中ではヴィジョンを示しつつ、メンバー同士の相互作用のプロセスをデザインし、あとは自己組織化を促すような支援をする。つまり機械論的には出口の部分を問題にし、生命論的には入り口の部分を問題にする。生命論的なアプローチはある意味、どんなものができあがるか予想不可能であるが、より創造的なものができあがることが期待できるし、メンバーのモチィベーションも高くなるであろう。
  氏は設計図とヴィジョンの違いについて触れていて、前者はイデオロギーの原理にもとづき、後者はコスモロジーの原理にもとづく、としている。イデオロギーの原理は画一化した価値観による固い原理で他の価値観を排除するものであるのに対して、コスモロジーの原理は多様な価値観を包摂した柔らかい原理である。ヴィジョンは指導者の言霊(ことだま)、すなわち生命力のある言葉によって示される。「言葉が世界を作る」=「言葉が組織を作る」。
  
by ykenko1 | 2004-12-22 17:28 | 社会科学 | Comments(0)

複雑系の経済学(2);新しいアイデアの数々

  これまでの経済学の分析も要素還元主義に基づいて自己の利益のために合理的な行動をする個人を前提とした手法を取っていたが、複雑系の科学の影響を大きく受けて変換を迫られた。と言うよりは、これまでの経済学の限界にぶちあたっていたため、新しいツールに触手を伸ばし、その解決の道を探ったと言うべきか。
  現代経済学の元々の流れはアダム・スミスの「神の見えざる手」という考え方で、個人や企業がそれぞれ自己の利益に基づいて行動するときに「神の見えざる手」が導いてほどよい均衡がもたらされるというものだった。新古典派経済学は「神の見えざる手」を数学的に証明する方向性と取っていた。そこには物理学的な均衡の理論が背後にあった。それが進化生物学的な観点に転換してきている。企業や組織の進化や淘汰や共存関係として経済活動を捉えていこうとする。更には情報理論、システム理論も取り入れられた。
  またこれまでのモデルでは個々人や企業がその時々における完全な情報に基づいて完全に合理的な行動を取るとされてきたが、それは現実の社会を反映していないことが指摘されるようになった。むしろ我々は不完全な情報の中で限定された合理性に基づいて行動している(限定合理主義の考え方)。
  これまではそれぞれの国や文化に依存した個々の企業の制度の問題は研究の対象とされてこなかったが、そのような制度を比較して研究することにより個別的な条件を解明していくこと。
  個々人や企業は自由放任の状態で置いておけば「神の見えざる手」によって社会的にも望ましい状況が生まれるという考え方から、人々や企業に「あめとむち」(=インセンティブ;誘因・刺激・動機)を与えてある行動へと導くという「目に見える人間の導く手」をシステムの中にいかに取り入れるかを考えること。
  いくつもの新しいアイデアの中から経済学の世界もまた大きな飛躍をとげようとしている。

参考書;週刊ダイヤモンド1996/11/2特大号『「複雑系」の衝撃』
by ykenko1 | 2004-10-31 23:21 | 社会科学 | Comments(0)

複雑系の経済学(1);ブライアン・アーサー

  サンタフェ研究所のブライアン・アーサーは複雑系経済学の教授であるが、過去のような大量生産時代の経済法則と現代のようなハイテク時代の経済法則ではまったく異なるものになる、という。
  大量生産の時代とは同じような製品を大量に生産して販売するような形態の経済システムの時代のことを指す(例えば車・テレビ・冷蔵庫など)。そのようなシステムでの法則として、収益逓減の法則(徐々に利益が減っていく)、商品の固定化、人々は最適化を目指して努力する、完全合理性に基づいて働く、などを挙げている。
  一方、製薬・IT関連・航空機・軍事兵器などのハイテク時代にあっては、収益逓増(徐々に利益が増えていき、ある企業が一人勝ちの状態になる)、商品は流動化し絶え間なく変化する、人々は最適化よりも次に来る波を読んで適応しようとする、限定合理性(限られた範囲内での合理性に基づいて行動する、変化が激しく予測不可能な状況下での判断となるので)、などの法則が成り立つという。
  マイクロソフトのビル・ゲイツやインテルのアンディ・グローブはハイテク時代にあって先を読む能力に長けており、その結果、市場で勝ち続けている。このような時代に相応しい組織形態はヒエラルキーに基づいた固い組織ではなく、使命遂行型のフラットで柔軟な組織形態が望ましい。
  アーサーはこのような経済学を考えるようになったのは、生物の世界においてほんの小さな歴史的偶然が拡大され、活用され、強化されるシステムがあることを知ったからだという。このようなシステムはポジティブ・フィードバックのシステムである。これまでの新古典派の経済学ではネガティブ・フィードバックの考えに基づいており、システムに何かの変化がおきるとやがてそれを打ち消すような力が働いて再びもとの均衡を取り戻すシステムを想定していた。しかし彼は現実の経済は収益逓増というポジティブ・フィードバックが強く作用する生物学的なシステムではないか、と考えたのだ。

参考書;週刊ダイヤモンド1996/11/2特大号『「複雑系」の衝撃』から
by ykenko1 | 2004-09-15 00:36 | 社会科学 | Comments(0)