松岡正剛氏と「方法としての編集」

私は高校時代に「遊」という雑誌にであって以来、松岡正剛氏のファンである。もう何十年も前のこと。本屋でその雑誌を見たときには「何だこれ?」というクエスチョンマークが頭にたくさん浮かんだ。たしかその号は1003号で創刊第3号だったと思う。文系や理系のいろいろな論文、とんがったデザイン、松岡正剛氏の縦横無尽のぶっとんだ文章。何をテーマにして何をやろうとしているのか全く分からなかったが不思議な興奮につつまれた。

その後松岡氏の「自然学曼荼羅」や「存在から存在学へ」、津島秀彦氏との対談「二十一世紀精神」などに進んだがどれもぶっとんでいた。「この人は何をやろうとしているのか?」わからなかったがとにかく博識で、しかも文系も理系のジャンルも関係なく語られるのであった。また文章はややアジテーションがかっているのだが、どういう方向に読者を導こうとしているのかがわからない。「全宇宙誌」なんていう大型の真っ黒な本もあって、当時は値段が高くて手が届かなかったが紙も特殊な紙を使って製本されていて、作るのにさぞやお金もかかったであろう。収益をあげることはできたのだろうか?今となっては余計な心配も頭をよぎる。

後に松岡氏は編集工学研究所を立ち上げて「知の編集工学」なんていう本を書いたりしている。そうしてようやく「この人は編集の知で遊びたかったんだ。」と理解した。氏によれば「編集とは該当する対象の情報の構造を読み解きそれを新たな意匠で再生するもの」ということになる。知的な行為としての編集はさまざまな分野をつなげる柔軟性のあるクリエイティブなものである。そこから私は多くのことを学んだ。そのことを松岡氏に感謝したいと思う。


<松岡正剛氏の著作その他>

・「自然学曼荼羅」工作舎

この本の副題は「物質・感覚・生命・芸術・仏教から」とあるようにさまざまなジャンルを超越した内容。本書のなかで「相似律」ということばが出てくるのだが私はこれに衝撃を受けた。相似律とは宇宙のさまざまな場面で出現する似たようなパターンのことで素粒子のスピン、地球のスピン、銀河の回転、指紋とつむじと渦巻銀河などがあげられている。現在ではフラクタルなど自然科学でも多くの分野でパターンの科学ができあがってきているけれど、以前はそこまでポピュラーではなかった。


・「存在から存在学へ」工作舎

松岡氏が1978年の土曜日に1年間にわたっておこなっていた無料の私塾で語られたもの。稲垣足穂やホワイトヘッド、ヴァスバンドゥの話、「存在はスピンの回転数の代名詞にすぎない」という物理学の話など。


・「山水思想―もうひとつの日本―」五月書房

日本画家横山操が亡くなる前に語った「日本画の将来はどうなるんだ」ということばをきっかけにして日本の水墨画の雪舟から長谷川等伯への道のりをたどる。さまざまな絵が掲げられ日本画と中国画の交流や人物の動き、思想や方法論の流れなどが描かれる。


・「情報の歴史 増補版」NTT出版

膨大な人類の歴史を「情報」の観点から編集して年表にしたもの。「関係の発見のために」と最初に書かれているがさまざまな事件や出来事、宗教や文化の関係がどうなっていたのかがわかる。まさしく編集の知の極地といってよい書物。2021年に編集工学研究所から「情報の歴史21」が出版され、これはNTT版にその後の歴史的展開を追加したものになっている。


・「知の編集工学」朝日文庫・「知の編集術」講談社現代新書

「知の編集工学」の方は工作舎をやめて編集工学研究所を立ち上げた経緯や編集工学のアイデアについて書かれていて、「知の編集術」の方は編集工学の実践的な指南書になっている。


・松岡正剛の千夜千冊(https://1000ya.isis.ne.jp/

20002月からはじまったブックナビゲーションサイト。現在は1800冊を超えている。多くの画像・資料とともに松岡氏の独特な観点からの本の紹介。氏の博識がいかんなく披露されている。私はこのサイトを通してさまざまな分野の本について知ることができた。


・角川武蔵野ミュージアム

松岡氏が館長をつとめる新しいコンセプトの文化複合施設。アート、文学、博物のジャンルを超え、あらゆる知を再編成した、世界で他に類を見ないミュージアム。隈研吾氏がデザインした建物、本棚。



※(その他)編集の学校・文章の学校監修「編集者・ライターのための必修基礎知識」雷鳥社

松岡氏とは関係がないが最近自分の仕事の関係で編集長のようなことをしなければならなくなって購入した本。とてもわかりやすく本や雑誌の編集という仕事とその周辺のことが書かれている。著作権のことなども知らないといけないと勉強になった。


# by ykenko1 | 2023-05-06 10:12 | その他 | Comments(0)

宇宙のコンピューターモデルの数学的表現(その2)

宇宙のコンピューターモデルの数学的表現は論理演算と線形代数を組み合わせたものになるだろう。それ以上のことは私の力不足でいえないのだが。
# by ykenko1 | 2023-04-01 22:53 | 情報論 | Comments(0)

情報の本質

情報の本質は量ではなく、部分集合の選択である。シャノンの情報理論が有名になったので量的な側面が注目されることが多いし、どうにかして量的に表現しようとする試みがあるが、それは違うだろう。数ではなく集合だ。
# by ykenko1 | 2023-03-27 21:38 | 情報論 | Comments(0)

自分というメディアを磨く

 自分というメディアを磨かなければならないと思う。知識よりも自分がどんなことに興味を持って、心を動かされるのか、そういうことにもっと敏感にならなければと思う。社会学者のオルテガは「私は私と私の環境である」と書いたが、そういう意味では私の環境への見つめ方を見直す必要がある。この頃、そんなことをやたらと思う。
# by ykenko1 | 2023-03-11 16:11 | 人生、哲学 | Comments(0)

自分を深めること

マルクス・アウレリウスの書いた『自省録』は他人にむけて書かれたものではなく、自分が自らを省みて自分自身にむけて書いたノートであった。「自問自答」と「決意表明」の「書くセラピー」であったのだろうと佐藤けんいち氏は書いている。『暗黙知の次元』で有名なマイケル・ポラニー(ポランニー)はその著書『個人的知識』のなかで知識の獲得のためには個人的なコミットメントが必要だと強調している。高度な知識の習得にはさまざまなスキルと本人のそこに向けた情熱、間違うおそれもある断定や責任がともなうのだ。

科学的な知識の探求だけではなくて、自分の人生や自らのかかわる事業の展開を振り返りながら自分を深めていくためには自己参照や自己言及的なプロセスが必要で、そのためには日記を書いてそれを読み返すことは役に立つと思う。一時期はデジタルに記録を残してそれを日記代わりにしようと思ったが、読み返すことを考えるとアナログなノートが良いと最近思うようになった。


<参考文献>

・佐藤けんいち『超訳 自省録』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021

・マイケル・ポラニー『個人的知識』(ハーベスト社、1985


# by ykenko1 | 2022-09-23 09:29 | 人生、哲学 | Comments(0)