情報と計算の概念を物質世界に適用することを検討すべき5つの理由

情報と計算の概念を物質世界に適用することを検討すべき5つの理由

(1)  大統一理論(量子重力理論)への貢献

いまだに相対性理論と量子力学を一つにまとめる大統一理論は完成されていない。超ひも理論がその候補にはなっているけれども10500乗個の宇宙の可能性が出てきてしまい、その限界が指摘されている。現在サイモンズ財団の支援を受けながら「It from Qubit(IfQ)プロジェクト」が進められている。量子情報研究者と物理学者が「時空は情報の基本単位からできていてそれらは『量子もつれ』現象を介して結びついている」というコンセプトのもと共同研究を行なっているが、それによって大統一理論(量子重力理論)への貢献が期待されている。

 

<参考資料>

・別冊日経サイエンスno.229『量子宇宙 ホーキングから最新理論まで』(日経サイエンス社、2018)

・セス・ロイド『宇宙をプログラムする宇宙』(早川書房,2007

・竹内薫『ざっくりわかる宇宙論』(ちくま新書、2012

It from Qubit project (https://www.simonsfoundation.org/mathematics-physical-sciences/it-from-qubit/)

・It from Qubit-Stanford Universityweb.stanford.edu/~phayden/simons/overview.pdf)

YouTube動画 “Michael Rios;It fromQubit Revisited:Solving Quantum Gravity”https://youtu.be/cos6_gIlDGY

 

(2)  情報熱力学;情報によってエネルギーを取り出す

情報熱力学の研究によって情報的な介入によってゆらぎ現象からエネルギーを取り出す実験が行われ、成功している。

 

<参考資料>

Sosuke Ito “Information Thermodynamics onCausal Networks and its Application to Biochemical Signal Transduction”(Springer,2016)

Soichi Toyabe, et.al. “Experimentaldemonstration of information-to-energy conversion and validation of thegeneralized Jarzynski equality” (nature physics, 14 November 2010)

YouTube動画 “ヨビノリ;物理学の根幹を揺るがす思考実験(マクスウェルの悪魔)”(https://youtu.be/AFx6CqYtbwQ

 

(3)  物理現象の階層間のギャップを埋める

物理と化学、ミクロとマクロなど物理現象の階層間には理論的なギャップがあり、それらを埋めるコンセプトとして計算概念が使えるのではないかという期待がある。

 

<参考資料>

Nielsen and Chuang “Quantum Computationand Quantum Information 10th Anniversary Edition”Cambridge University Press, 2010p12

 

(4)  シミュレーション科学の正当化

現在では当たり前のように科学の分野でコンピューターシミュレーションを使った研究が行われているがその理論的な正当性は十分には説明されていない。その正当化のためには情報や計算概念と物理現象の関係を明確にする理論的な枠組みが必要ではないだろうか。

 

<参考資料>

・マイケル・ワイスバーグ『科学とモデル シミュレーションの哲学入門』(名古屋大学出版会、2017

M.ヘッセ『科学・モデル・アナロジー』(培風館、1986

 

(5)  パターンの法則の解明

宇宙には“フラクタル”(空間的なパターン)や“べき乗則”(統計的なパターン)など普遍的なパターンの法則が存在しているがその基本原理は必ずしも解明されていない。

 

<参考資料>

Philip Ball “The self-made tapestry;Pattern formation in nature”Oxford University Press,1999

・メラニー・ミッチェル『ガイドツアー 複雑系の世界』(紀伊國屋書店、2011

・ニール・ジョンソン『複雑で単純な世界』(インターシフト、2011



# by ykenko1 | 2021-02-11 09:38 | 科学など | Comments(0)

論理学の革命前後(19c後半〜20c前半)

19世紀後半から20世紀前半にかけて「論理学の革命」と呼ばれる事態が起きていた。この時期に数学と論理学が交差してそれぞれの発展と結実をもたらすこととなった。そこにおけるもっとも根底的なアイデアは「集合」と「写像」であった。

伝統的な論理学はアリストテレスの三段論法で、彼が歴史上初めて形式論理学の体系を生み出した。そしてその論理学は何世紀にもわたって唯一の体系として哲学の分野に君臨していた。その変化の兆しは19世紀中旬に計算によって推論を行おうとするブールのアイデアであった。それは論理演算とも呼ばれ現代のコンピューターの構成の根幹をなしている。同じく19世紀後半にフレーゲは『概念記法』によって述語論理学の体系を定式化し、現代論理学の創始者としての立場を築き上げた。フレーゲは数学者であり哲学者であったが、彼は論理学から算術の体系を導こうとする論理主義の立場をとった。

カントールはデデキントとともに現代集合論の創始者とされるが、彼の集合論には矛盾があることが1902年ラッセルによって指摘され、その矛盾を克服するための公理的集合論がツェルメロ、フレンケルらによって提唱されている(ZF集合論)。公理的集合論と一階の述語論理によって数学のほとんどすべての体系について語ることができるとされ、数学基礎論において集合論は不可欠の道具となっている。

現代哲学は言語と世界の関係を問う言語哲学の上に立っている。言語と世界の関係はすなわち言語の意味論となるが、それが語と対象という指示のレベルなのか、文・命題と事実という真理のレベルなのか、言語全体と世界総体との全体論的なものなのか、など様々な問いが立てられる。20世紀に入りヴィトゲンシュタインは世界と言語の結びつきが解釈関数によってなされると考える写像理論を提唱した。タルスキはモデル理論的意味論によってヴィトゲンシュタイン流のアイデアを完成させた。デイヴィドソンはタルスキのアイデアと全体論的意味理論によって形式言語だけではなく日常言語における意味理論(真理条件的意味論)を追求した。

このように論理学の革命と呼ばれた時期に、「ことばとは何か」、「数とは何か」、「論理とはなにか」という根本的な問いが投げかけられ、その後のさまざまな展開がなされたのであった。

 

参考文献

・中山康雄『科学哲学入門』(勁草書房)

・中山康雄『言語哲学から形而上学へ』(勁草書房)

・野本和幸『数論・論理・意味論その原型と展開』(東京大学出版会)

・野本和幸『意味と世界』(法政大学出版局)

・竹内外史『集合とはなにか』(講談社ブルーバックス)



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# by ykenko1 | 2021-01-31 14:32 | 哲学 | Comments(0)

2種類の数

 数には2種類あると思う。よく言われるのは個数と序数で、ものの数を数え上げる個数とものの順番を示す序数だけれど、それとは別にアナログの数とデジタルの数があると思う。アナログの数はものの重さを測ったり、ものの大きさを測った時に指定される数値で連続的に変化する。デジタルの数はものを数え上げたり、順番を示したりする時の数で、これは1の集合に属する、これは2の集合に属するなどを指定するもので、一種のパターン分類になっていて非連続に変化する。数学の世界でこれらはきちんと整理されているのだろうか?つまり2種類の数論、2種類の数学基礎論が必要なのではないか?デデキントの数論が論理的数論であるとすれば、幾何学的数論もあり得るのではないか。

# by ykenko1 | 2020-12-06 13:21 | 数学 | Comments(0)

情報の意味の問題

 シャノン以降、情報の意味の問題は置き去りにされて、情報科学は発展してきた。もちろん情報には量的な側面がある(特に通信の領域においては)が、しかし情報は本質的に意味を伝えるものだ。意味の問題をどう整理するのかということは避けて通ることはできない。
 意味の問題を整理するためには言語哲学の成果を取り入れるべきだと思う。特にタルスキのモデル論的意味論が参考になる。そして参考書としては野本和幸氏の「数論・論理・意味論 その原型と展開」(東京大学出版会)を挙げたい。同書では「数とは何か」「数理と論理の関係」「ことばの意味とそれらの関係」についてデデキント、シュレーダー、フレーゲ、ヒルベルト、ゲーデル、タルスキといった知の巨人たちがどのように取り組んできたのかが分かりやすく紹介されている。基本的な知識さえあれば誰でも読めるようになっている。
 意味の問題を論理的にそして数学的に整理しつつ、コンピューターや脳という実体に結びつけることが今後の情報科学に求められていると思う。

# by ykenko1 | 2020-12-06 12:26 | 情報論 | Comments(0)

パターンの法則探究のためのアイデア;物理現象のデジタル化

 私の『情報・計算概念の拡張』は物質現象だけではなく、生物や人間や人間社会の現象を情報やパターンの普遍的な法則の観点で見てみるというアイデアであった。しかし物質現象だけに限って考察してみることもできる。物質現象に限っても普遍的なパターンの法則が存在することは明らかだと思う。例えばフラクタルであったり、べき乗則、相転移なども普遍的に見られる。ネガテイブな形のパターンの法則はエントロピーの増大(熱力学の第2法則)である。そして普遍的なパターンの法則の探究のために必要なのが物理現象のデジタル化だと思う。すべての物理現象をデジタルの観点から捉え直すこと。それによってコンピューターシミュレーションに載せて走らせて見ることでパターンの法則を探究する。過去においては自然科学の協力な武器が数式化であったとすれば、現代においてはデジタル化が強力な武器になるだろう。
 物理現象のデジタル化のためには単純な現象をデジタルの観点からどのように捉えるかが問題になる。私のアイデアは情報計算論文の中にも紹介したが、パターン特異的反応性(pattern specific reaction; PSR)を考えるというもの。PSRとはあるシステムにパターンが入力されて、出力としてある領域が選択されるという考え方である。ここでパターンとは「事物の特徴の組み合わせ」である。例えば2つのボールが衝突するという現象を考えれば、それぞれのボールの位置・速度・運動の方向性というパターンの組み合わせのあり方によってボールの衝突というイベントが選択される。別の例ではボールを投げて放物線を描いて飛んでいくという現象がある。どのような放物線が選択されるかは初期条件である速度や角度によって決められている。この場合も速度や角度の組み合わせのパターンがその後の放物線のあり方を選択している。
 ここで選択される領域は全ての可能な現象の中の部分集合が選択されていることが重要で、選択された領域とそれ以外の領域にパターン分類されるプロセスがあって、選択された領域を1としてそれ以外の領域を0とおけば、そこにデジタル性があると見做せると思うのだがどうだろうか?数値計算と論理演算を比べたときに、数値計算が連続的な数の中の一点を指し示すのと対照的に論理演算では真と偽という2つの集合の中からどちらかが選ばれるのと同様だと考えるのだけれど。
 残念ながら私の専門は医学の分野でここで示したようなアイデアを考えるのもあくまでも趣味で自然科学の分野で発表する専門的な能力や余裕はないのだが、誰かが具体化してくれないだろうか?私の自分勝手な願いであり、妄想である。

# by ykenko1 | 2020-10-24 06:27 | 物理学 | Comments(0)