村上春樹 『アフターダーク』

  最近、いやな事件が多い。自分も自分の身の回りの人も被害者になる可能性ばかりではなく、加害者になる可能性があるのではないかと思われ、それが忌まわしい。他人事のように思えない。
  数ヶ月前に村上春樹の『アフターダーク』を読んだのだが、最近になって作者の言わんとすることが身に染みて分かってきた気がする。amzonでこの本の書評の数は281(2005.2.15現在)にものぼるが、評価は好意的な評価と後味が悪いなどの評価に二分されている。こんなにも評価の分かれる作品も珍しいのではないか。私は始めてこの作品で村上氏のものを読んだのだが、これまで村上ファンだった読者にとってはやや意外なストーリーだったらしい。確かに読後感は微妙で複雑である。ある種の後味の悪さも確かにある。この世の中に存在する悪(※)の問題。そこから逃れられない現実。しかし後味が悪いのはこの作品のせいではなく、後味の悪い世の中のせいである。むしろそういう現実を見据えながら作者はそこに解決の道を見出そうとしている。人と人のつながりの中に希望を見出し、それを乗り越える道があるのではないかと提示している。いつかは暗闇が去るときがくることを信じて。
  誰かを強く抱きしめたくなる。


※悪の定義についてコンセンサスを得ることは非常に難しいと思われるが、ここでは仮に「理想とは反対の状態のこと」という意味で使っている。
by ykenko1 | 2005-02-15 13:36 | 芸術 | Comments(0)


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