“Quantum computation and quantum information”

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Nielsen and Chuangの“Quantum computation and quantum information”は量子コンピューターの定番の教科書らしい。皆さんは、量子コンピューターについてはご存知だろうか?要するに量子力学的な作用、素粒子の相互作用そのものを利用して計算し、情報をやり取りするコンピューターである。

私は量子コンピューターは変わり者の研究者がやっている特殊な研究だとばかり考えていたがそうではないらしい。そこには現代科学と技術の必然的な課題としての研究があるようだ。そこには以下のような3つの目標がある。

1.最速のコンピューターの処理速度の追求
2.量子力学的現象のシミュレーション
3.量子暗号



1.最速のコンピューターの処理速度の追求
1965年にゴードン・ムーアは「コンピューターの処理速度は2年間で倍になる」と言うムーアの法則として知られる法則を提案しているが、それ以来、彼の指摘のごとくコンピューターの処理速度は年を追う毎に速くなってきている。それではコンピューターの処理速度の限界はどこにあるのだろうか?コンピューターの処理速度が速くなるごとにコンピューターの部品はより精緻化され小さくなっているが、その究極は素粒子の大きさと言うことになり、素粒子の相互作用そのものを利用して計算するコンピューター、即ち量子コンピューターがあれば、それこそが最速のコンピューターになるであろう。そういう意味で量子コンピューターの研究と開発は必然的な流れである。

2.量子力学的現象のシミュレーション
量子力学的現象のシミュレーションは通常のコンピューターでは真の意味のシミュレーションは困難であり、量子コンピューターであってこそ、真のシミュレーションが可能であると言われている。そのようなシミュレーションを行い、研究を進める上で量子コンピューターの開発は当然必要である。

3.量子暗号
情報通信の分野で究極の暗号は量子暗号であると言われている。何故なら量子力学的な相互作用を利用して暗号化し情報を伝達すれば(例えばAさんからBさんに)、その情報を第三者(Cさん)が解読しようと干渉するとそれだけでその情報は変化してしまうので、第三者は解読することができないのだ。究極の通信セキュリティーを獲得するために量子コンピューターの研究は必然である。

本書の中で私が感動した部分を引用しよう。(p12)
「量子計算と量子情報は我々に計算を物理的に考えることを教え、このようなアプローチが数多くの新しく興奮すべき可能性を情報処理や通信の分野に実らせることができることを我々は発見した。コンピューター科学者と情報理論家は開拓すべき新しく豊かなパラダイムを与えられた。実際のところ、最も広い意味で量子力学に限らずどのような物理理論も情報処理と通信の理論の基礎として用いることができるかもしれないと言うことを学んだのだ。このような探求の実りはいつか現在の計算や通信システムの能力を遥かに越えた装置を生み出し、社会全体に限りない利益と見返りを与えることだろう。
 量子計算や量子情報は物理学者に多くの挑戦を突きつけるであろうが、量子計算と量子情報が何を物理学に提供するかと言うことは長い目で見ればやや些細な事柄に属するのかもしれない。我々が計算について物理的に考えることを学んだように、我々は物理学を計算論的に考えることができると信じている。物理学は伝統的に素粒子のような基本的な対象や単純なシステムの理解に焦点を当てて来た伝統があるが、一方自然界の興味深い現象はより大きくて複雑な事物において観察される。化学や工学はそのような複雑な現象を取り扱うが、多くの場合その場しのぎのやり方で扱われることがしばしばである。量子計算と量子情報がもたらすメッセージのひとつは極小のレベルとより複雑な事物の間の溝を埋める新しいツールを得ることができると言うことである。計算とアルゴリズムの観点はそのようなシステムの構成と理解のための手段を提供する。このような領域からもたらされたアイデアを適用することにより既に物理学に新しい洞察がもたらされつつある。このような観点が物理学の全ての側面を理解するのに多くの実りをもたらす道が切り開かれ、新しい未来が花開くことが我々の希望である。」

私の観点からすると計算の観点とはパターン特異的反応性(PSR)である。なぜなら計算の観点にはそれが何からできているか、とか量的な関係よりも、関係性とその変化が重要視されるからである。量子計算と量子情報こそPSRの定式化の基本となる考え方となるであろう。
by ykenko1 | 2014-07-25 04:15 | 情報論 | Comments(0)


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