この論文は“Computing Handbook Third Edition”の中にあるが当初はAmerican Scientist 98(2010)に掲載され、その後Best Writings on Mathematics 2011(Princeton UniversityPress)に転載され、加筆されたものである。“Computing”は日本語では「計算」という言葉になるがいわゆる「計算」というと算術演算のニュアンスが強い。しかし現在ではそれには到底収まりきれない様々な概念の合成となっているのでここでは「コンピューティング」と翻訳することとする。このハンドブックの中では「コンピューティングとはコンピューターを必要とする、またはコンピューターによって恩恵を受ける、コンピューターを作る、などの目的を指向した活動のすべてを意味する。」と定義されている。
さてここからデニングの論文の内容になる(多少編集して紹介)。 「コンピューティングは単にデータを分析する道具としてではなく、思考と発見のための仲介者として科学にとって必須である。コンピューティングは比較的若い学問であり、1930年代にクルト・ゲーデル、アロンゾ・チャーチ、エミール・ポスト、アラン・チューリングらによって始まったものである。彼らは自動的な計算(一定の手続き)の重要性を見て取り、その厳密な数学的基礎を追求した。彼らが提案したコンピューテーションを実装化するためのいくつかのアイデアはどれも等価であることがその後証明された。」 「当初はコンピューティングはすでに確立された科学と工学の分野からすると謎であった。最初は数学、電気工学、科学の技術的適用に過ぎないと思われていた。しかしその後、コンピューティングは止まることを知らない新しい洞察をもたらし、そのルーツとなった分野に吸収されるという当初の多くの予想を拒絶した。」 「1940年代は自動計算と呼ばれ、1950年代は情報処理、1960年代は学問として米国ではコンピューター科学、欧州では情報学と呼ばれるようになった。1980年代にはコンピューター科学、情報学、計算論的科学、コンピューター工学、ソフトウェア工学、情報システム、、情報技術などを含むようになり、1990年代にはこれらのコアとなる分野のすべてをコンピューティングと呼ぶようになった。」 「工学のパラダイムはシステムのデザインと実装、数学のパラダイムは定理の証明、科学のパラダイムは仮説の実験的な確認、コンピューティングのパラダイムは自然界と人工物の情報処理の研究である。」 「当初は科学は自然界の現象、コンピューティングは人工物の対象を研究すると考えられていた。」 「1990年代後半に生物学界のリーダーがDNAの翻訳は自然界の情報処理であり、生物学は情報科学の一部となったと主張するようになった。」 「1990年代に生物学、量子力学、経済学、化学において情報処理の概念が用いられるようになった。」 「科学において複雑すぎて数学的な分析では理解できない現象をコンピューティングによって理解と発見をもたらすことができる。」 「<コンピューティングパラダイム>;1.出発点:作ろうとしている(あるいは観察された)システムが情報処理として表現できるかどうか決定する。2.概念化:システムの振る舞いを生成するコンピューテーショナルなモデル(アルゴリズムや計算的なエージェントの集合)をデザインする。3.現実化:指示を実行できる媒体にデザインされたプロセスを実装化する。シミュレーションや発見されたプロセスのモデルをデザインする。情報処理のプロセスを観察する。4.評価:論理的な正確性、仮説との整合性、パフォーマンスの制約因子、当初の目的との適合性などをテストする。必要なら現実化のやり方を進化させる。5.実践:世界において導かれた結果を実践。評価を継続するためにモニターする。」
自然科学に利用されてきた数学は人間の頭で考えるものであったが、コンピューティングにおいてはあるアルゴリズムが何かの機械に実装され、実行されなければならない。そうしてこそ初めて理解できるような複雑な現象があるのだ。
<参考文献> “Computing Handbook Third Edition”, Edited by Teofilo Gonzalez, Jorge Diaz-Herrera(CRC Press, 2014)
by ykenko1
| 2021-05-09 11:38
| 情報論
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