天才というと誰を思い浮かべるだろうか?アインシュタインを思い浮かべる人は多いと思うけれど、彼は物理学という一つの分野における天才であった。フォン・ノイマンは物理学だけではなく論理学・数学・化学・計算機科学・情報工学・生物学・気象学・経済学・心理学・社会学・政治学など多くの分野における業績を残した多才なダヴィンチ型の天才であった。彼の才能は天才たちが集まったプリンストン高等研究所の中でも一際秀でていて他の研究者からも「本当の天才」と呼ばれていた。彼は原子爆弾の開発に深く関与し、現代的なプログラム内臓型コンピューターを生み出した人物である。ある意味で近代合理主義精神の権化ともいうべき人生を送った。
一方で彼は原子爆弾の開発の過程において「我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない。」「科学者として科学的に可能だとわかっていることは、やり遂げなければならない。それがどんなに恐ろしいことだとしてもだ。」などと語り、倫理的には問題がある人物だったと言わざるを得ない。また彼は何度か立ち会った核実験で浴びた放射能が原因とされる癌により徐々に弱り、死を目前にしたときカトリック教徒となった。それに対して娘のマリーナが「あなたは何百万人もの人々を亡き者にすることを沈着冷静にじっくり考える人なのに、自分自身の死に直面することができないのね。」と語った時、ノイマンは「それとこれとはまったく違うんだ…。」と言い訳をした。
我々人類はノイマンの類い稀な才能によって多くの恩恵を受けている一方で彼の人生の中に近代合理主義精神の限界も感じるのだ。そしてその限界は21世紀を生きる我々が今もなお解決できずに抱える課題でもある。
*参考文献 1.高橋昌一郎『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』(講談社現代新書);原子爆弾の開発前後のことも詳しく書かれているが、それによって科学者たちの力が戦争に利用され、その勝敗を決する様子がありありと実感される。日本への原爆投下と当初の候補地は「皇居、横浜、新潟、京都、広島、小倉」であった。また日本が広島、長崎への原爆投下でも降伏しない場合、札幌から佐世保まで全国12の都市へ原爆を順番に投下する計画もあった。 2.ジョージ・ダイソン『チューリングの大聖堂』(早川書房);フォン・ノイマンの人生や活躍を中心としてプログラム内蔵型コンピューターの開発の歴史が写真などの資料とともに詳細に描かれている。
by ykenko1
| 2021-06-12 21:43
| 科学と人間
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