チューリングマシンについて

コンピューターの発明において、チューリングがそのアイデアを提供し、それを現実のものとしたのがフォン・ノイマンだとされている。ちなみに「コンピューターを作ったのは誰か?」という問いに対して、イギリスでは「チューリング」と答えるのが正しく、アメリカでは「フォン・ノイマン」と答えるのが正解なのだという。それはともかく、チューリングのアイデアは現在では「チューリングマシン」と呼ばれているが、それはアルゴリズム(=一定の手順)を記号化し、定式化し、マシン化したものと言われている。抽象的な論理・推論の世界が具体化され、機械となった。それによって我々はどのような恩恵を受けているのだろうか?当たり前のことのように思うかも知れないが、これまで人間の手では到底行うことができないような複雑な計算を素早く実施することができるようになった。また様々なシミュレーションを行う計算科学の分野が開拓された。もっとも大きな恩恵を受けているのは大気や海洋、地殻の動きなどをシミュレートする地球科学の分野だ。数値地球科学とも呼ばれる。物理や化学の実験と違い、気象などの地球規模の現象は実験室で取り扱うことができない。そのため計算機の中にもう一つの地球を作り、シミュレーションによって実験を行うわけだ。計算科学は実験、理論に続く第3の科学と呼ばれることもある。近年ではチューリング賞を受賞したマイクロソフトリサーチのジム・グレイがビッグデータなどを扱う第4の科学(第4のパラダイム)を提唱している。これまでは現実の現象を出発点として科学的研究が行われてきたが、多くのデータが集積されている現在においては大量のデータを出発点としてそこから隠れたパターンや規則を機械学習などによって見出そうとするアプローチである。データ集約型科学とも呼ばれる。このような新しい世界が見出されたのもチューリングのマシン化のアイデアが出発点であったことを振り返って思う。

*参考文献
『フォン・ノイマンの哲学』高橋昌一郎(講談社現代新書)
『シミュレート・ジ・アース』河宮未知生(ベレ出版)
『データ集約型科学が人類の危機を救う 科学の「第4のパラダイム」』トニー・ヘイ“ハーバード・ビジネス・レビュー2011.11月号”

by ykenko1 | 2021-08-29 11:45 | 情報論 | Comments(0)


<< 3つのテーゼ フォン・ノイマンと近代合理主義精神 >>