空想と現実の区別とそれを支える神経基盤

昔(2004.11.17)、複雑系の認識論(2);脳はいかにして空想と現実を見分けているのか?という記事を書いた。(本当に昔のネタを再度持ち出して申し訳ない。)内容としては人間が如何にして空想と現実を区別しているのかという認知心理学的な研究の話であった。結論としては脳の中の情報処理過程でボトムアップ的な処理の痕跡が強いものが現実として認識され、トップダウン的な要因が強く残っている者が空想として区別されるというような話であった。(前回の記事に追加するとすれば、空想は一面的なアクセスであるのに対して現実は多面的なアクセスが可能という面も指摘できるだろう。)

上記の話はあくまでも健常者の認知のお話。痴呆症の方や統合失調症の方が妄想という症状を呈するような場合はこれとはまた違ったファクターが絡んでくる。妄想の場合、誤りを訂正できないのが特徴で、妄想内容をご本人は確信している。確信とは情動のひとつの有り方なので単に認知の次元に収まらない。アルツハイマー病で妄想の症状を呈する場合は右大脳半球の障害が強い場合が多いと言われている。ラマチャンドランという有名な神経科学者の説によれば、左の大脳半球は放っておくと自分の手元にある情報から合理的な作り話を構築してしまう。それに対して右半球は左半球の作り話を現実と比較してその整合性をチェックする働きをしていると言う。ウェルニッケ・コルサコフ症候群と言ってアルコール依存症やビタミンB1欠乏症の方が物忘れや見当識障害、作話等の精神症状を呈することがある。作話とは本人に悪気はないのだが、どんどん作り話をしてしまう症状。この症候群を来す部位としては前脳基底部といって脳の前方底面に近い場所の障害が指摘されているが、この部位も人間の現実感覚をチェック(リアリティ・モニタリング)するとして考えられている。
by ykenko1 | 2006-10-17 15:47 | 認識論 | Comments(0)


<< 変わった言葉の障害 肥満と認知機能 >>