The theory of everything (万物理論)

“The theory of everything”, R.B.Laughlin and David Pines, PNAS 2000.97.28-31

ノーベル賞を受賞したロバート・ラフリンが万物理論についてのコメントを書いている。元々はジョン・ホーガンが書いた『科学の終焉』という本に刺激を受けて書いたもののようだ。ホーガンが書いたのは、量子力学や相対性理論のような宇宙の究極的な法則が知られた今に至っては今後は新しい法則が出ることは期待できない。科学の終焉の時を迎えている、と言った内容のようで、それに対してラフリンは異議を唱える。

科学の世界では還元主義の方法論が主流を占めて来た。還元主義は複雑な高次の現象を単純で低次の現象に分解して理解しようとするもので、元々はギリシア哲学に出発点を置く。確かに還元主義は大いなる成功を収めてきて、量子力学はその究極の形であるが、量子の世界の法則を知ってみると、その法則だけでより高次の現象を説明することができないことが明らかになって来た。この法則だけでは惑星の土星についてや核融合や太陽や放射性同位元素の崩壊についてなどを説明することはできない。なぜなら重力や核内の相互作用等の情報が欠けているからだ。量子の世界においてもシュレディンガーの波動方程式を用いて予測することができるのはせいぜい10個程度の量子の現象しか説明できない。これは実践論的な問題のようで、1個の量子について波動方程式を計算するのに必要なコンピュータのメモリがNだとすると、k個の量子ではNのk乗のメモリが必要になる。そのためコンピュータで計算できるのはせいぜい10個程度だと言う。

現代は「科学の終焉」ではなく「還元主義の終焉」の時代を迎えているとラフリンは言う。P.W.アンダーソンの有名な言葉に「多は異なり(more is different)」という言葉があるが、低次の現象により高次の現象すべてを説明することはできない。そこにはまた違った要因が現れてくるからだ。そのためすべての現象を説明する「万物理論The theory of everything」は存在せず、「事物の諸理論The theories of things」が存在するだけである。高次の現象の解明のためには低次の現象から導き出された理論によるのではなく、あくまでも実験に基づくことが必要である。還元主義の科学は「複雑で適応的な物質の研究the study of complex adaptive matter」に変換されるべきである。

言われてみれば当たり前のことのようだが、これも究極の理論を知ったからこそこのように明言できるのだろう。(それから結局シュレディンガーの猫の問題も実験して確かめるしかないのだろう。ただ猫を殺してしまうようなことになれば可愛そうなのでゾウリムシ程度でどうだろうか?)
by ykenko1 | 2006-11-26 09:16 | 物理学 | Comments(0)


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