たまたまリハビリ関係の研究会に参加したのだが、リハに関するものに参加するのは初めてだった。これまでは高次機能障害や認知症や臨床心理の学会にのみ参加していた。と言う訳でとても新鮮だったし、勉強になった。その中でとても強い印象を受けた事があって、多分この内容はリハビリ関係をやっている人にとってはとても当たり前の現象なのだろう(例えば気まぐれさんなんかはとてもよく知っている事なのだろうけれど)が。
それは脳ー身体ー環境がひとつの回路としてつながっているということだ。そしてそこにおいて治癒的変化がもたらされるということ。 一番印象に残った症例は寝たきりのお婆ちゃんの話で、脳梗塞後遺症で身体全身が過緊張の状態になっている。車いすに乗せる事もあるのだが、その上でもやはり突っ張ってしまっている。コミュニケーションもほとんどとれずに「痛い」ぐらいしか言わない。その方に対してバスタオルを身体の下に敷いて体位交換するようにしながら背中の様々な部分がベッドに触れる感覚を与えていくことで身体の過緊張の状態が改善し、車いすでの姿勢が改善。首も回すようになってアイコンタクトも取れるようになり、「痛い」という発言もなくなってしまった。何故こんなことが可能なのか? その理学療法士の考察では脳梗塞の後遺症で体幹を保持する力が無くなってしまいベッド上でも姿勢を保つ事ができず、それを代償しようとして過緊張の状態になっており、背中からの感覚入力も歪んでしまっている。バスタオルを利用して背中の部分、部分の感覚入力を与えてやる事で自らの姿勢に関する認識に変化がもたらされて過緊張の状態が取れてリラックスできたのだと言う。 この症例以外にも車いすとポータブルトイレの下にクッションを一枚追加しただけで日常生活動作(ADL)が大きく変化し生活の自立度と意欲の変化が見られたり、半側空間無視といって頭頂葉の障害で身体の左側に関して注意が行かなくなっていた人がプリズムめがねで視線を左に10度ずらすことで左側への注意がなされるように脳の回路が切り替わったり、などが印象的だった。 これらの症例から感じたことが脳ー身体ー環境の回路がひとつにつながっており、ひとつを変化させることで全体に変化がもたらされるということであった。それはヴァレラとトンプソンの“Radical embodiment”の中で「脳だけの世界」から「脳ー身体ー環境の世界」へ観点を変えなければならないと主張した事、そのものであった。抽象的に考えると脳ー身体ー環境がひとつになってあるアトラクタを描いていたのが、リハビリ的介入により別のアトラクタを描くようになったと見る事ができようか。ある種の感動を覚えた。 あまり触れてこなかった分野から学ぶ事はとても大きい事を実感した次第。
by ykenko1
| 2007-11-18 06:59
| 医学・医療
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Comments(4)
こんばんわ、気まぐれです(笑)
確かに、リハでは結構感覚入力を重視します。 それが触覚・圧覚のみならず、固有受容覚が与える影響というものを非常によく利用します。 触覚・圧覚と違って、固有受容覚は筋・腱にその多くの受容器が存在しますので、この感覚を入力することによって筋緊張の調整が図られるのです。 また、感覚を入力するのみではなく、それを認知させることを重視する認知運動療法というものが最近流行って来ています。 ただ、この療法は「過激」な部分があって… 書き出したら長くなっちゃいそうなので、ここら辺にしておきます(汗) でも、こういうことをDrに興味を持っていただけるということはとてもリハ側としては嬉しいことです。 当院のほとんどのDrはリハの話も聴いてくれませんからねΣ(゚Д゚;≡;゚д゚) チーム医療って一体… ちょっと今日の書き込みは長くなっちゃいましたが、また今度色々とリハのことについてお話が出来ればと思います♪
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ykenko1 at 2007-11-22 00:36
こんばんわ。感覚と運動はカップリングしていて円環的な回路を形成しているのだとつくづく感じています。それでその回路が悪循環になっているのだとすれば、そのどこかを断ち切ったり、別の方向に誘導したりすれば、新しい循環が作られるのだと。観念的ですが。これからもいろいろ教えて下さい。
ご無沙汰してます。
リハビリ、最近盛り上がっているようですね。top-downとbottom upという言葉がありますが、僕らが普段関わる医療はbottom up的な考え方がほとんどだと思います。症状や異常所見からみるか、生活、環境的な文脈における患者さんの人生そのものからみるか・・。僕も2年前にリハビリの学会に参加する機会をもったのですが、そこではbottom-upとtop-downという両方のアプローチを統合させようという真剣かつ和やかな雰囲気があって、大きな刺激を受けました。認知リハビリテーションというリハビリの一分野では、Varelaらのオートポイエーシスの思想を、実践的な方法論に組み替えようとしていて、興味をもっています。
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ykenko1 at 2007-12-13 13:20
どうもです。わるねこさんもお忙しそうですね。最近、KelsoのDynamic Patternsという本を読んでいたのですが、身体的な協同運動(シナジェティックス的な)について書いてありました。ああいうのも身体リハに応用できそうな気がします。いずれにせよ新しい理論が新しい実践を生みだす現場というのはエキサイティングです。
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