『言志四録(一);言志録』から、再び

  cozyscさんのコメントにリスポンスするような形でもう一度、『言志四録(一);言志録』から引用してみます。前回引用したのはこの著書の中の東洋と西洋を対比的にとらえている部分なのですが、今回引用するのはまた別の観点ももっていた内容です。私はこれを読んだときにこの時代にこんなことを考えていた日本人がいたとは!と心底驚きました。
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131. 道理一貫
「広々とした宇宙に、正道が一本貫いている。人間の目からみれば、文明国あり、野蛮国ありだが、天からみれば、そんな区別はない。文明国に道徳を守る性質があり、野蛮国にもまたある。」「天がどうして、ある者には厚く、ある者には薄く与えるとか、またある者を愛し、ある者を憎むというような差別をしようか。」「正道が、中国の文字にありというのは、大きな間違いである。試みに考えてみたまえ。世界の内で、中国と同じ文字を用いている国がいくつあるか知らないが、その国々にも治もあり、乱もあって、中国と異なるところがないではないか。」「その他、横文字の国(西洋諸国)もまた道徳を守る性質や人倫の道をそなえていて、この世に生を養い、また死を送っているのである。」「こう考えてくると、正道は中国の文字にばかりあるのでは決してない。どうして天が、彼を愛厚し、これを薄憎するような差別があるといわれようか。天の正道は世界中いずれの国にも一貫しているのである。」
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  この当時(江戸時代末期、1813〜1850頃)には日本では中国の文化を絶対視していた時代背景があるのが伺えますが、それはひるがえって見れば現在と180度方向性が逆なだけで、案外現代にも通じると思うのです。現在はむしろ西の方ばかり見ている日本ではあります。しかし、この佐藤一斎の文章は現代日本にとっても十分示唆するところ大ではないでしょうか。中国を西洋に置き換えて読めば良いだけです。
  こんな自由で広い見方ができる人が、現代にもどれほどいるでしょうか?
  (ときどきblogの文体が変わります。そのときの気分です。)
by ykenko1 | 2004-08-12 00:38 | 言葉の力 | Comments(4)
Commented by cozysc at 2004-08-14 12:21
西洋でも、東洋でも、その考えの根底を見つけておくことが、なにげに重要だったりします。

もっといえば、いいとこ取りできればいいかなぁっと。

東洋とか、西洋とか、あまりカテゴリにはこだわらず、それがどうやってそういう考えになったのか?そのことをとらえられたらなぁ、と。

西洋文明といわれている根底には、数字で分析できる、絶対的な客観性をもっているという「信仰」……古典物理学に始まる、「唯物論」が色濃くでています。

それが、拡大されると、学歴社会だったり、すべてを得点によって評価しようとするのが当たり前で、落ち着くようになる。

ところが、そこにゆがみが生じてきたのは、ご存じの通り。
そうすると、複雑系的な考えが、一般的な価値観になるには……。まだ、しばらくかかりそうですね(笑)
Commented by ykenko1 at 2004-08-14 22:16
そうですね。複雑系と考え方もそうですし、以前に書いたのですが「科学と物語の調和」も人間にとっては重要だと思っています。
コメント遅れて済みませんでした。
Commented by symwoo at 2004-08-15 12:38
はじめまして。
私も複雑系に関心があり、勝手な妄想をして、楽しんでいますが、いろいろと参考にさせていただいております。
道理一貫は荘子の斎物論の影響があるように思えますが、如何なのでしょうか。
昔の人は不可思議なことを複雑系として感じていたのではないでしょうかね。それを宗教とか神秘主義として表現してきたのだと思います。俗にいう「風が吹けばおけやが儲かる」「伸びんとすれば屈せよ」「犬も当れば棒に当る」などはそのいい例でしようか。
Commented by ykenko1 at 2004-08-15 19:49
symwooさん、コメントありがとうございます。荘子との関係は分かりませんが、佐藤一斎はその当時のあらゆる学問に通じていたようなので、当然荘子などはよく知っていたのでしょう。そういう意味では影響を受けていたのかもしれません。
  東洋思想と複雑系の関係ですが、複雑系の考え方は基本的には東洋思想に相通ずるところがあると思っています。ただツールとしてのコンピュータや数学は西洋の方が進んでいるので、東洋人だからすぐに複雑系の科学を推進できるか、というとそういう訳ではないと思います。それでも東洋から偉大な複雑系の科学者が出てくる可能性は十分あると信じています。


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