二重世界論

量子力学にはエヴェレットによる多世界解釈があって、ユニバース(ひとつの宇宙)ではなくマルチバース(多数の宇宙)であると信じている科学者も多い。私は可能世界と現実世界の二重世界論を提案したい。つまり相互作用の前には多くの可能性があるが、相互作用によってそれらの可能性は消えて、ひとつの現実世界が残る。様相論理学の可能世界論の物理学バージョンだ。



<参考文献>

・ケネス・フォード『量子的世界像101の新知識』(講談社ブルーバックス)

・森田邦久『量子力学の哲学』(講談社現代新書)

・三浦俊彦『可能世界の哲学』(NHKブックス)

・オールウド・アンデソン・ダール『日常言語の論理学』(産業図書)


# by ykenko1 | 2022-08-07 16:06 | 情報論 | Comments(0)

論理と時間

論理の世界は時間を超越した世界のように考えられるが時間論理学というものもある。「今は雨が降っています。」という文章は今日は真であっても昨日や明日も真であるとは限らない。時間の要因と論理学を結びつけたものが時間論理学だ。コンピューターでは論理演算回路とレジスタ回路(一種のメモリ)が組み合わさリ論理と時間的因子がいっしょになっている。

ベイトソンは論理に因果は語れないと語った。論理の世界でも因果の世界でも「AならばBである」という「ならば」という言葉が出てくる。しかし三段論法で出てくる「ならば」と因果関係における「ならば」では全く異質なものになる。原因と結果が円環をなすときその連鎖を無時間的な論理に置き換えようとすると矛盾が生じてしまう。電磁石と金属板でできたブザーの回路を考えると、通常は金属板が接触子に触れていて電流がながれる。電流がながれると電磁石がはたらき、電磁石がはたらくと金属板は接触子から離れるので電流がとだえる。電流がとだえると電磁石ははたらかなくなり金属板はふたたび接触子に触れて電流が流れるようになる。このような回路を論理的に記述することはできないというのだ。しかし論理に時間的因子を加えれば記述することはできるのではないか?

人間が論理的にものごとを考える場合に経験や記憶といった時間的因子が加わることによって判断が異なってくることはよくあることだろう。


<参考文献>

・小野寛晰『情報科学における論理』(日本評論社)

・ダニエル・ヒリス『思考する機械 コンピュータ』(草思社文庫)

・グレゴリー・ベイトソン『精神と自然』(新思索社)


# by ykenko1 | 2022-07-31 14:51 | 情報論 | Comments(0)

要素還元主義とパターン普遍主義

要素還元主義は自然科学において大きな成功をおさめてきたアイデアでその起源はデカルトの『方法序説』に求められる。いくつもの要素が絡み合っている対象を分離可能な少ない種類の要素の集まりとして理解しようとするアプローチである。一方近年では複雑なものを複雑なままに理解しようとするアプローチもある。複雑な現象に関して数理モデルを作り、コンピューター上で走らせて事物を理解しようとする。複雑系科学のシミュレーション研究などがその代表である。複雑系の研究の中ではフラクタルや1/fゆらぎやべき乗則など普遍的なパターンの法則が知られるようになった。なぜコンピューターシミュレーションなどによって自然法則の研究が可能なのだろうか?私はこの宇宙には普遍的なパターンの法則があるためだと考えている。仮にそれをパターン普遍主義と呼ぶことにしよう。

それでは要素還元主義とパターン普遍主義のどちらが正しいのか?私はどちらも正しいのではないかと考えている。この宇宙には2つの側面があって、どちらか一方が正しいと主張する必要はなく、その時々の必要性に応じてどちらのアプローチを選ぶか選択すればよい。


*ちなみにイタリアの理論物理学者カルロ・ロヴェッリはその最近の著書『世界は「関係」でできている』の中で量子力学の不可思議な世界の考察において実在よりも関係で物質の世界を考えるべきだと結論している。私からするとこれはパターン普遍主義の観点だと思う。


<参考文献>

・デカルト『方法序説』(岩波文庫、1997

・江崎貴裕『データ分析のための数理モデル入門』(ソシム株式会社、2020

・複雑系の事典編集委員会編『複雑系の事典』(朝倉書店、2001

・カルロ・ロヴェッリ『世界は「関係」でできている』(NHK出版、2021


# by ykenko1 | 2022-07-16 13:00 | 科学など | Comments(0)

パターン形成の普遍的な法則

 自然科学の世界においていまだにパターン形成の普遍的な法則は知られていない。私の考えでは物質世界のパターン形成の普遍的な法則を解明するには「情報・計算の概念を物質世界に適用すること」「物質世界のセル・オートマトン(CA)性を明確化すること」が必要だ。情報・計算概念を物質世界に適用する時の考え方については既に私の見解をこのブログで発表したのだけれど、物質世界のCA性とは何か?それは「並列性」「再帰性」「近傍性(相互拘束)」である。
 Philip Ballの“The self-made tapestry"(Oxford Univ Press)にはパターン形成の一般的な法則は知られていないとしながらもそこに働く様々な原理について書かれている。“Competing forces”、“Symmetry breaking”、“Non-equilibrium”、“Dissipative structures”、“Instabilities, thresholds and bifurcations”、“Model behavior”、“Pattern selection”、“Correlations”、“Power laws and scaling”など。

# by ykenko1 | 2022-06-04 08:39 | 情報論 | Comments(0)

宇宙のコンピューターモデルの数学的表現(その1)

宇宙のコンピューターモデルを数学的に表現するとどのようになるか?

情報=パターンによる選択
パターン=事物の特徴の組み合わせ=ベクトル
選択領域=可能世界・可能因果の中の選択部分=集合論における部分集合
計算=線形代数とブール演算の組み合わせ

*時計じかけの宇宙とコンピューター宇宙の違いは物質の因果を数値計算と考えるか、論理演算と考えるかの違い。

参照;当ブログにおける『情報・計算概念の拡張』

# by ykenko1 | 2022-03-29 16:38 | 情報論 | Comments(0)